■「コーチング」という言葉は既にご存知の方(また実践されている方)も多いかと存じます。コーチングは、主に傾聴や質問を使って1対1の対話を通して、相手(部下)の考えを引き出し、課題解決や目標達成、行動改善をサポートしメンバーを育成するリーダーのスキルです。(と簡潔にまとめさせていただきました)
■「アクションラーニング」とは『現実問題を4〜8名からなるチームで、質問中心のミーティングにより、本質的な問題を共有化し、解決のための行動計画をつくり、実施(行動)し、その結果を検証することで確実に問題を解決し、同時にふり返りを行うことにより個人及びチームの学習(能力開発)を推進するプロセス』です。このミーティングセッションと課題解決の全体プログラムをマネジメントしていく役割が「アクションラーニングコーチ」です。
(さらに詳細についてはNPO日本アクションラーニング協会)
■「アクションラーニング」は、コーチング・OJTなどの個別指導や会議、これまでの問題解決研修とは次のような違いがあります。
●個人が一人で悩む問題が
⇒○問題抱え込みから、チーム全体の問題として共有化される
●1対1の相談(コーチング)が
⇒○多様な視点で課題解決を促進するシナジー相談(文殊の知恵)に
●お通夜のような会議が
⇒○全員の意見・アイデアが引き出される会議に
●自己主張ばかりの空中戦ミーティングが
⇒○限られた視点・部分ではなく全体最適思考と本質の追求が進むミーティングへ
●自己の立場に固執した主張し合いが
⇒○傾聴・共感により共通認識ができる話合いへ
(他の手法との違いはこちらもご参照))
■アクションラーニング(AL)のプロセス(ミーティング)の具体的な内容をここで述べます。
ALのプロセスにおけるコミュニケーションは「質問」中心です。言い換えると質問から始めることです。
質問には次のような効用があります。
●多様な質問することで、問題が明確になります。
(参加メンバーがいろいろな視点で質問をすると、問題の姿が見えてきます)
●質問に答えるやり取りは「傾聴」の姿勢をつくります。(一方的な説明は時に聞く気をなくすが、自分の質問への回答には関心を引きます。また、他者の面白い質問とその回答にも耳を傾けます)
●質問で、少しずつ実態や本質が見えてくると関心・共感を呼び起こし、グループの団結が高まります。
●質問をする内に、質問をした人、された人、聞いていた人、それぞれにふり返りが起こり、気づきが生まれやすくなります。
●素直な質問や新鮮な質問(素人質問)は、ブレークスルー(枠を打ち破った考え方、解決)を引き起こします。
「質問」の効用はまだまだあります。
2.コーチングの次なるステップ、研修と実践を結ぶ「アクションラーニング」とは(2)
■前回は「アクションラーニング」がどんなものであるか、コーチングやOJT、従来型の会議との違い、またアクションラーニングのセッション(ミーティング)での中心である「質問」の効用について述べました。
この第2回は、さらに「ふり返り(リフレクション)」とアクションラーニングの効能(効果・メリット)について述べます。
■アクションラーニング(以下AL)では、第1回で述べたように「質問」から始めるミーティングを行います。もう一つ、質問で問題を明確にしたり、目標を設定したりする問題解決の進行の途中で時々「ふり返り(リフレクション)」をします。
●「ふり返り」とは、アクションラーニングコーチ(以下ALコーチ)が、ミーティングの途中で、
「ちょっとここでふり返りをしましょう」と介入し、「今グループの雰囲気はどんな感じですか?」「質問は自由にできていますか?」などと、話し合っている問題解決の中身ではなく、話合いの状況・プロセスを見直してみることです。
●「ふり返り」の効用は、@話が行き詰っている時に、一息入れて再開後は新たな進展を見せる、
Aあまり質問していない人にも質問をするキッカケを与える、
B片寄った話合いから、様々な視点で展開させる、
C今何が目的(又は本質)なのか?など内容面についても見直しをさせる、
D参加メンバーへ意識を向けてお互いの関係を深める、などがあります。
●「ふり返り」は日常の会議やミーティングではあまりやらないことでしょう。
以前ならば会議の後の一杯(飲みにケーション)で、「いやあ、今日の会議は厳しかったなあ、確かに部長の言う事はそのとおりだ!」とか「しかし、あそこまで言うか!って感じですよね」
「○○君、元気がないようで気になったが、どうした?」とかやったかもしれません。これは一種の「ふり返り」といえます。この飲みにケーションで人間関係が出来てきたともいえます。昨今はそれも減っているようです。
●ALでの「ふり返り」の元の言葉「リフレクション」は、単にその場でミーティングの状況をふり返るということだけではなく、「内省」「省察」というように気になったことを深く考え直してみる、本質的な意味を問い直す、自分について深くふり返る、というような意味を含めた言葉です。
そこに新しい発見や創造を見出すこともあります。
■この「質問」と「ふり返り」を中心として、現実問題に取り組み、具体的な行動計画をALコーチのサポートの元で、学習(問題解決だけではなく、そのプロセスを通した学び、気づき)を意識したグループセッションを行うことで、ALには次のような効能があります。
●現実の問題解決に役立ち、成果を出します。
参加者が実際の業務で直面している問題の解決や経営の重要課題の解決に取り組みます。
複雑でどのように解決していくがすぐ見えない問題こそALに適した問題です。
解答がない問題の本質的な解決を推進します。
●職場会議やミーティングに活用できます。
「質問合意ミーティング」という進め方で、実際に企業内で活用できます。
また社内ALコーチを育成することで、ALセッションを展開することもできます。
●職場内のコミュニケーションが活発になります。
職場の課題についての共通認識や状況の理解が深まり、様々な情報や目的などの共有化が進みます。進むべき課題解決の方向性を明確にし、またそれに貢献する実感を持つことで円滑なコミュニケーション、何でもいえる雰囲気、職場チームの団結力を高めます。
●個人的な能力、リーダーシップが高まります。
ALミーティングでは「ふり返り」を行うことで、問題や自分自身、職場についてなどの様々な気づきや学びを促進します。特に物事を俯瞰する力や多角度的にモノを見る力が養われます。またALコーチの体験を積むことで「チームを育成する力」と言う新しいリーダーシップも養成されます。
他にもALの効能はあります。そもそもALをどのような目的で活用展開するかというプログラムの作成により、その会社や組織の固有の重要課題の解決を促進することができます。
※次回『コーチングの次なるステップ、研修と実践を結ぶ「アクションラーニング」とは(3)』に続く
3.コーチングの次なるステップ、研修と実践を結ぶ「アクションラーニング」とは(3)
■第2回では、アクションラーニング(以下AL)における「ふり返り(リフレクション)」とALの効能(効果・メリット)について述べました。
第3回(本テーマ終了回)は、ALとコーチングやティーチングとの関係について述べます。
■本連載のテーマが『コーチングの次なるステップ、研修と実践を結ぶ「アクションラーニング」とは』ですから、タイトルからして「コーチング」より「アクションラーニング」が進化しているとか、よりお勧めしているような印象をお持ちかもしれません。
しかし、私自身確かにコーチングを学んでから次にALを学んだので、次なるステップとはその意味が含まれていても、決してどっちが良いと言う話をしたいわけではありません。
同様のことは、ティーチングとコーチングについても、これからは「コーチング」が大切だというような主張もありました。しかし、どのような手法(アプローチ)も相手と目的その他の状況によるのであって絶対的にいつでも必ず効果がある手法などはないと思います。
■最近AL手法による問題解決研修やマネジメント研修を実施して(この7月〜9月初めの約2ヶ月間で、AL基礎講座も入れると7本がAL中心の研修)発見したことが3つあります。
●一つ目は「AL研修の方がコーチング研修以上に、受講者が質問の大事さを実感できている」と感じました。
A Lではコーチング研修と比べると、傾聴のスキルや質問のスキルについてのトレーニングはほとんどしていません。しかし、研修終了後の感想で多くの人が「質問」して相手や部下の考えを引き出すことは重要だ、と非常に実感を持った言葉で語ります。そして研修の終わり頃に、研修のふり返りのための対話場面をつくると非常によく相手の話を傾聴し、質問してコーチング的な関係をつくることができていました。
●二つ目は「トレーナー(ALコーチ)が質問してふり返りをすることが多くて、教えることが少ないほど、受講者の気づき・学びが多い」ことに気づきました。
一つ目に感じたことにも近いのですが、職場の問題解決を考えながら7人のグループでALセッション(つまり7回)を2日間の研修でやった時に、あまり全体で教える(レクチャーする)時間などとれませんでした。勢い各セッション終了時のふり返りタイムが中心となります。
結果として、それが良かったということに気づきました。時間がないので余計な(トレーナー視点での思い込みの)ティーチングがなく、メンバー自身のふり返りとALコーチの質問でメンバーの中で気づきや学びが深められていることが効果的だということです。
●三つ目は、コーチングとALとの関係には、直接関連がないようなことですが「私自身が以前より、常に今の研修の受講者が優れている又は良い点が多いというようにメンバーを肯定的にみることができている」ことです。
受講メンバーが前向きで出来る人たちだと研修講師(トレーナー)が感じるとどのような良いことがあるかというと、そう思っていない場合比べると、これはかなりなものです。このメンバーは仕様もない人たちばかりだ、と心の内で思っている講師は言葉には出さなくても、表情や口調などの態度でその気持ちは伝わります。その逆に、何を言っても、それは良いですねと肯定的に認められる講師の言動により、メンバーが尊重されている研修という雰囲気ができます。
コーチングではクライアントの中に答がある、クライアントは常に最善である…など、クライアントを承認し、尊重することはコーチングの基本的な姿勢・あり方です。
ALでもALコーチはメンバーの学習の最大の支援者であり、規範においてはお互いの尊重、サポートをうたっています。
結論的に言うと、トレーナーであるALコーチ自身、つまり私がALセッションをその目的のために最大限に役割を務めることで、自分自身の変化(成長)があったということです。
■本稿でお伝えたしたい見解をいくつか述べます。
@ALはその参加したメンバーがお互いをコーチングしあえる信頼関係や協働関係をつくることに役立ちます。なぜなら「質問」の有用性を実感できるからです。
Aグループメンバーが提起した現実のある問題について、問題解決を意図して質問と答えと対話のコミュニケーションを繰り返す中で、「質問力」が磨かれていきます。
B1対1のコーチングでの気づきや学び以上に、複数人数のしかも相互に誰が誰に質問してもよい対話のセッションであるALを通しての気づき・学びがより豊なものになる可能性が大といえる。
Cコーチングでのコーチ役は先生ではないとは言え、何かあるレベル以上のものを持っている、尊敬とまでいかなくても模範やモデルになるような信頼感が暗黙に求められます(業績の悪い営業マンが良い営業マンをコーチングすることは実質不可能)。しかし、ALではお互い普通のメンバー同士が相互コーチングの機能を果たすことができます。
DALコーチは、メンバー同士がコーチングのコーチをできるような関係性のチームを作ることがその役割であること。つまり、お互いが質問と答えと言う対話セッションの中から学習することができる関係性の構築がALコーチの目指すことである。
現段階での私の結論は
(1)コーチングを職場で活用している会社で、ALを導入するとコーチングが加速的に活用され機能するようになる(かなりの確信度合いで)。
(2)ALを導入・活用した組織で、さらにリーダー、マネージャー役の人がコーチングスキルを学ぶと現実に役立つコーチングが行われる(可能性が非常に大きい)。
この2つの結論は、この4月から約半年の私の研修実践を通しての学びです。当初この原稿を書き始めたときには、明確ではなかったのですが、ここに来てかなり断言できる確信とまでなっています。
この9月後半以降、来年の3月までの6ヶ月と少しで、その実践例を作って、機会があればご報告していきたいと思っています。
3回にわたった「コーチングの次なるステップ、研修と実践を結ぶ「アクションラーニング」とは」をここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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